学習を継続するための明確な目標としての「数検」
他者・社会とのつながりをもち探究を深める数学教育

  • 中高一貫教育校
  • 立命館慶祥中学校・高等学校(北海道) 
    お話:手代木 俊一教頭

生徒が学習を継続するための明確な目標として「数検」を活用

生徒が学習を継続するための明確な目標として「数検」を活用本校は、立命館と慶祥学園との法人合併により、1995年に高等学校、2000年に中学校がそれぞれ設置された、北海道江別市に位置する私立の中高一貫教育校です。2006年ごろから、本校に入学してくる生徒の数学力低下が問題になっていたのですが、高校受験のない中高6か年教育のなかで、生徒が継続して学習するためには、明確な学習到達目標が必要と考え、2007年に数検の導入を決定しました。

今では、中学校範囲の数学力を確実に習得するために、中学校から高校へ進学するための進級条件として「数検3級取得」を明示し、中学校卒業までの最低到達目標として位置づけています。また、中学校1年では4級、中学校2年では3級、中学校3年では準2級の取得をめざすよう、それぞれの学年での目標を明確化しています。ちなみに、2級以上を取得すると、中学での卒業式に成績優秀者として表彰する制度もあります。

数検は年に3回、それぞれ対象者ごとに実施しています。1回めは希望者のみの受検。2〜3回めは、学年目標に到達していない生徒の受検を必須としています。目標に到達している生徒には、より上位の級への挑戦を促しています。何度も挑戦できる機会を保証することで、確実に学年目標に到達できるようなしかけになっているとともに、上位の級に合格した仲間の刺激を受けて、自分も上位をめざしたいという気持ちが熱いうちに、受検を促すことが可能になっています。

また、数検受検に向けた学習について、本校では特別なことは行っていません。むしろ、ふだんの授業をしっかりと理解してついていくことができていれば、問題なくそれぞれの学年での取得目標を達成できることを、生徒・保護者に伝えています。特別なことをせずとも、授業に集中することに専念してもらうだけでよいという指導が、本校の数学科の指導力の信頼感・安心感にもつながっていると思います。

グローバルリーダーの育成をめざし、「他者との交流」をもちながら数学を学ぶ

グローバルリーダーの育成をめざし、「他者との交流」をもちながら数学を学ぶ本校では、「世界に通用する18歳」を学校の目標として掲げています。つまり、グローバルリーダーを育成してくことが、教科を問わず、本校の教員には求められているのです。このグローバルリーダー育成のための数学科としてのアプローチの1つが、「他者との交流」をもちながら数学を学ぶことにあります。「他者との交流」を取り入れた授業を構成することで、思考力や判断力だけでなく、他者理解、調整力、表現力を身につけることができると考えています。具体的な取り組みとしては、教員がファシリテーターとなり、生徒どうしで教え合う学びや、解答をチームで作成し、それを相互で発表、検証を行うなどの実践をしています。本校には、最先端のICT環境で自主的な学びを促進するアクティブラーニング棟という教室棟がありますので、生徒にとって「他者との交流」が実践しやすい施設環境が整っています。

また、日本数学検定協会が奈良の東大寺に奉納している、算額の問題を解いて応募する「算額1・2・3」の取り組みにも、生徒の思考力・活用力・表現力などの養成に最適と考え、2018年にはじめて取り組み、団体で応募しました。応募のきっかけは、本校の生徒の活用力(知識・技能を活用する力)の低下に不安を感じたことにあります。たとえば、数学で「速さ」「濃度」「グラフ」などを扱っているのに、理科になるとその知識を活用できなくなるといったような状況です。問題は何を問いかけていて、そのためにはどのような数値やアプローチが必要なのか。また、それをほかの人にわかりやすく伝えるためにはどう表現するといいのか。これらを1つの問題をとおして経験できるところに、「算額1・2・3」の取り組みのすばらしさがあると考えています。たんに解き方を暗記して問題を解くというステージから、真の思考力・活用力・表現力を養うステージへと移行できる取り組みとしてはほかにないもので、本校としてはこうした取り組みを企画していただいていることにたいへん感謝しています。

※2022年は諸般の事情により問題の解答募集は行っていない。

社会とのつながりをもちながら探究を深めていく教育を推進する

社会とのつながりをもちながら探究を深めていく教育を推進する本校は、より先進的な理数教育を行っている高等学校として、2012年度に文部科学省からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に採択され、2017年度に再指定を受けました。本校におけるグローバルリーダー育成のための方策として具現化されているものが、思考力・判断力・表現力を育てる学び、主体的・対話的な学びです。学習指導要領に記載される以前から、本物の体験を学びのなかに取り入れ、社会とのつながりをもちながら、探究を深めていく教育方法を進めていたことがSSHの採択につながっていると考えています。

SSHの指定を受けてから10年で蓄積されたノウハウが本校の特長でもありますが、その間に器材を充実させ、高校3年間で34時間、120タイトルものオリジナルの理科実験を開発しています。教科書にある現象でも、目の前で実際に体験することで、手触り・匂い・音などの刺激とともに印象に残りやすく、記憶の定着にも役立ちます。

そのほかにも、海外の生徒との共同研究(現在はコロナ禍のためオンライン会議システムのZoomを活用)として、とくに母国語が英語でない国の生徒と水質汚染の調査研究を行っています。またSSHの重点枠では、「国際科学オリンピック」に参加できる人材の育成をめざし、大学の教員と連携したハイレベルサイエンス講座を開講し、多くの生徒が「国際数学オリンピック」などへ挑戦しています。今年度(2022年度)は、「国際化学オリンピック」で本校の高校3年生の生徒が金賞、「Math A-lympiad世界大会」で高校2年生のチームが世界一に輝くという実績もあげています。また、昨今重要視されてきている「数理・データサイエンス」について、本校でも課外活動・部活動の一環として学ぶ機会を設けています。昨年2021年度は、広く全国から一定のスキルを持った生徒が集まって実施する「琵琶湖の環境調査プロジェクト」に参加する生徒や、宮古島から観測機器を風船につけて打ち上げ、成層圏を舞台にデータ収集・解析を行う「スペースバルーンプロジェクト」に参加する生徒もでてきています。今後は、正課の授業においても、外部人材(大学や民間企業との連携など)を活用してデータサイエンスを学べる取り組みができないか検討を進めています。

これからも、「数検」や「算額1・2・3」などを活用するとともに、社会とのつながりをもちながら探究を深めていく教育を推進し、グローバルリーダーの育成をめざしていきたいと思います。