「自分もやってみよう」
という
刺激の輪が広がる
数検でイベントのような雰囲気を作る
本校が中高一貫教育校になって、附属中学校の学年がそろった2012年度に、数学検定(以下、数検)を導入しました。本校の中学生は高校受験という短期的な目標がないので、どうしても学習のモチベーションを維持しにくいところがあります。そこで、数検や英検、漢検の検定を団体受検することにしました。数検の良いところは、学校で受検できることと、学校の都合にあわせて検定日を選べるところです。保護者も「学校で受検できるならぜひ受けさせたい」と思うようです。
数検を導入して良かったのは、数学に意欲的になった生徒が増えたことです。本校では、中高一貫教育校の特長を生かして、学習進度を速めています。いわゆる「先取り学習」です。数学の学習進度も速いので、「数検を受けるなら自分の学年レベルの1つ上の級をめざそう」と指導しています。数検を受けるために先取りして学習しておくと、ふだんの授業の理解がより深まります。
自分の学年よりも上の級に合格できた生徒は、明らかに学習に対するモチベーションが高まります。周りにも良い刺激を与えてくれて、たとえば中学3年生で高校2年生レベルの2級に合格した生徒が出たりすると、生徒の間で「なんで2級に合格できたの?」と一目置かれる存在になって、周りの生徒たちも「それなら自分も2級に合格する」と発奮し始めます。
素直な生徒が多いので、「かっこいい」と思えば、それに向かってがむしゃらに突っ走っていくところがあります。受検希望者を増やして「クラスみんなでがんばろう」というイベントのような雰囲気を作って意欲を引きだすことが大切だと思っています。
放課後に大学生が高校生に教える機会も
数検は毎年2回実施しています。9月と1月です。受検を希望する生徒には、さまざまな対応をとっています。本校では、夏休みなど長期休みにいろいろな講習会を開くのですが、そのなかで数検の対策講座を設けることもあります。たとえば、中学2年生に中学3年生レベルの3級対策講座を開いて、中学1年生も受講できるように内容を工夫します。すると、先輩たちに混じって学ぶことになるので、大いに刺激を受けます。逆に上の学年の生徒も、下級生が合格して自分が不合格になるわけにはいかないので、やはり気合いが入ります。
また、本校は東京都教育委員会から「理数アカデミー校」に指定されており、理数教育に力を入れています。その取り組みの一環で、東京大学の学生に来てもらって、2か月に1度くらいの頻度で「理科実験教室」を開いてもらうのですが、その学生たちに「放課後質問教室」という講座も開いてもらい、生徒が自由に質問できるようにしています。このときに、数検の学習に関する質問も受け付けます。大学生から直接教えてもらうと、分からないところが分かるようになるだけではなくて、憧れの大学が身近に感じたりするなど、生徒のなかでいろいろと感じるところも出てきます。
数検が大学受験に向かう姿勢につながっていく
今年の3月、中学1年生から6年間担当した生徒たちが卒業しました。数検に最後まで取り組んだ生徒たちは、文系理系に関わらず、数学には自信をもっていました。東京大学の理科Ⅱ類に進学した生徒は、中学2年生のときに上の学年レベルの級に合格してからずっと数検に取り組んでいました。早稲田大学の理工学部に進学した生徒も、「数検は最後までやる」と言って、高校1年生のときには準1級に挑みました。このようなチャレンジが、大学受験に向かう姿勢を作ってくれたのかなとも思います。
実は私も、自分が中学生のときに部活の顧問だった数学の先生に勧められて、数検にチャレンジするようになって、放課後などにその先生から数学を教えてもらいました。それが今では、私が数検を受ける生徒を指導する立場になり、夏休みに数学Ⅲを教えた生徒が早稲田大学に入ったりと、感慨深いものがあります。
今後は、もっと多くの生徒が数学に対して積極的に取り組んでほしいと思っています。先ほども話したとおり、本校は「理数アカデミー校」に指定されおり、いちばんの特長は、中学3年生と高校1年生が取り組む「探究未来学」で、生徒が個別にみずからテーマを設定し探究活動に取り組みます。数学的な題材を選ぶ生徒もいて、そのなかには数検に意欲的に取り組んできた生徒もいます。このように数学を探究してくれる生徒を増やしていきたいです。
数検以外にも、数学の自由研究作品コンクール「MATHコン」や、数学に関わる大学主催の研究発表会などたくさんの取り組みで、生徒たちには、さらに活躍してもらいたいです。また、そんな生徒の活躍を見て、他の生徒も「自分も負けないようにがんばろう」と感じる。そんな刺激が学校中で広がっていくのがいちばん良いと思っています。