ビジネスパーソンがあるべき姿、データサイエンス数学ストラテジスト

すべてがデジタル化する未来に向けて、ビジネスパーソンが意識すべきことは変化しています。この記事では、データ活用やデータサイエンスの分野における「数学」の重要性についてご紹介いたします。

※本記事は、「データサイエンス数学ストラテジスト[中級]公式問題集」および「データサイエンス数学ストラテジスト[上級]公式問題集」(いずれも日経BP)のまえがきの内容を再編集したものです。

DX が変えるビジネススキル

仕事で役立つスキルといえば、文章力、読解力、コミュニケーションスキルなどのほか、リーダーになればビジネス思考、コーチング、交渉力など、いろいろあります。もちろん、これですべてではありませんし、業界特有のスキルもたくさんあります。こうしたスキルは、ここ数十年で多少は変化しましたが、大きな変化はありませんでした。

しかしここにきて、ビジネスパーソンに求められる「基本スキル」が大きく変化しようとしています。その背景にあるのは「デジタル技術」の進化です。「AI(人工知能)」や「ビッグデータ」といった言葉を聞いたことがあると思います。難しそうな言葉で自分に関係するとは思わなかった人もいるかもしれませんが、こうしたデジタル技術は科学者や技術者のためにあるのではなく、世の中をより良くするためにあるのです。そして実際、社会を、仕事を、私たちの生活を、変えようとしています。

すべてがデジタル化される未来

デジタル技術による変化を、一部の人たちは「アフターデジタル」という言葉で表現しています。それは、「すべてがデジタル化し、従来のアナログな部分もデジタルに取り込まれる」という意味です。「すべてがデジタル化する」と聞いてSF のように感じた人がいるかもしれませんが、身のまわりで起きている変化は確実にそこに向かっています。

たとえば、キャッシュレス決済はお金の取り引きのデジタル化です。無人店舗では、誰がいつ入店し、どの商品を手に取って購入したかということが、すべてデジタル化されます。街中にはカメラがあり、誰がどこを歩いているかもデジタル化されます。気がつけば、私たちの行動はすべてデジタル化されています。これはほんの一部ですが、「すべてがデジタルになる」世界は、確実に近づいているのです。

もちろん、ビジネスのデジタル化も進んでいます。「ビジネスのデジタル化」と聞いて、これまでも「業務でIT を使ってきた」とか「ネットを活用してビジネスをしてきた」といったことを思い浮かべる人もいると思いますが、注意したいのは、今起きている「デジタル化」はそれらとは明らかにレベルの違う話です。社会の根本的な部分がデジタル化されるのであり、デジタルを「活用」するのではありません。もちろん、「IT リテラシーが大事」といった捉え方ではまったく不十分です。

今起きていることは、デジタルありきですべてを考え直すということです。ビジネスも、それを支える業務もです。これまで「人」ありきで考えてきたビジネスや業務をデジタルありきで考え直し、業務改革をしたり、事業変革をしたりする。これこそが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」なのです。

「AIと一緒に働く」のが標準的な仕事のスタイル

ここまで、「アフターデジタル」「DX」という大きな変化が起こっていることを説明しました。では、このような変化を受けて、ビジネスパーソンのスキルはどのように変化するのでしょうか。それは、「デジタル化とは本質的に何か」を考えれば答えは出てきます。

デジタル化の本質は「データ化」です。データ化とは、コンピュータで処理したり分析したりできることを意味します。会社の業務がデジタル化されるということは、「業務=データ処理」になるということです。これは、単純な業務だけが対象ではありません。「業務上の判断」は「データに基づいた分析」になります。さらに、長年の業務経験があって初めて判断できるようなことであっても、データである以上分析可能です。おそらく膨大なデータを使って高度な分析が必要になるでしょうが、そうした領域にはAIがあります。

一時期、「AIに仕事を奪われる」との警鐘が鳴らされました。これは、「従来の多くの仕事はAIによって代替可能で、人は、従来とは違う仕事をするようになる」と解釈するのが正しいと思います。では、人はどのような仕事をするのでしょうか。業務内容はさておき、仕事のスタイルは「AIと一緒に働く」「AIが得意なところはAIに任せる」ようになるでしょう。実感はないかもしれませんが、これが、これからの「標準的な仕事」のスタイルです。

学校教育の数学をビジネススキルとして体系立てる

この「標準的な仕事」をするのに必要なスキルを掘り下げてみましょう。たとえば、データを分析するには大量のデータを図にして可視化することが必要で、単純な棒グラフや折れ線グラフだけでなく、散布図やヒートマップなどの図表化スキルが求められます。そのほか、回帰分析やヒストグラムなどの手法を学ぶ必要もあるでしょう。

データを活用するには、確率統計が基本となりますが、線形代数、微分積分などを学ぶことによって高度な分析を行うための根幹を身につけることができます。AIと一緒に仕事をするには、基本的なアルゴリズムのほか、機械学習の基本やニューラルネットワークの原理などを知っておくことが大事です。

いずれも、学校教育でいえば「数学」の分野に入るものです。つまり、これからのビジネスパーソンにとって、「数学」はより重要になるのです。ジャンルによってはやや高度な知識が必要ですが、学校教育の数学のすべてが必要になるわけではありません。忙しいビジネスパーソンが中学数学からすべて学び直すというのは現実的ではなく、求められるのは、ビジネスパーソンに求められるスキルを、学校教育の数学と結び付け、効率よく、無駄なく学習できるように体系立てることです。それこそが、日本数学検定協会が実施・運営する「データサイエンス数学ストラテジスト」資格制度です。

理系科目が不得意な人でもなれる

「デジタル化」はもちろん日本だけで起こっているのではなく、世界のトレンドです。このトレンドに乗り遅れると日本は世界から取り残されてしまいますので、国も教育界も人材のスキルシフトに本腰を入れ始め、「データサイエンス人材」を増やそうと躍起になっています。「データサイエンス数学ストラテジスト」資格制度は、こうした流れに乗ったものです。

言葉として似ている人材像に「データサイエンティスト」があります。誤解がないようにしておくと、「データサイエンス数学ストラテジスト」資格制度は、「データサイエンティスト」と無関係ではありませんが、データサイエンティストを育成する制度ではありません。データサイエンス数学ストラテジストは、すべてのビジネスパーソンがめざす人材像であり、めざす姿は「データ分析できる」「データ活用できる」「AIと一緒に仕事ができる」人材です。AIと一緒に仕事をするのに、データサイエンティストのような高度なスキルは必要ではありません。何をAIに任せるべきかを判断し、実際にAIに任せ、AIが出した結果を活用すればいいのです。

「データサイエンティスト」をめざす人はもちろん必要ですが、ハードルが高いのも事実です。それに対して「データサイエンス数学ストラテジスト」は、すべてのビジネスパーソンが一定の学習で習得できるように考えられています。たとえ理系科目が不得意な人であっても、一定の学習をすれば習得可能なはずです。

将来は、すべてのビジネスパーソンがデータサイエンス数学ストラテジストでもある。そうした未来は「あるべき姿」のように思います。逆にそうならなければ、日本は世界のトレンドからどんどん取り残されてしまいかねません。この記事を読んでくださったみなさんには、ぜひ「データサイエンス数学ストラテジスト」の資格を取得していただき、それぞれの企業で周りをリードする存在になってもらいたいと思います。

記事を書いた人

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松山 貴之

日経BP 技術メディアユニット 編集委員