ヒロセ電機株式会社

目次
【きっかけ】コミュニケーションを定性型から定量型に変えたかった

貴社の営業本部では、ビジネス数学研修と検定をセットにした研修プログラムを2022年に始めていらっしゃいますが導入のきっかけを教えてください。
〈研修ご担当者〉
この研修を始めたのは、日々の業務のなかで行われるコミュニケーションに課題があると認識していたからです。簡単に言うと、コミュニケーションが定性的でした。数字などを使って定量的に因果関係を示すよりも、「多い」「少ない」などの定性的な表現を用いる場面が多く見受けられました。
会議の場でも、「思ったより早く目標に近づくことができています」などと、感覚的なやり取りが目立っていました。営業本部の社員の多くが文系出身であることも、その一因と考えられます。
ただ、このまま定性型コミュニケーションで業務を進めていくと、何らかの課題が生じたときに基準や指標を示せないまま「どうやって改善すればいいのか」と考え続けることになります。当社をとりまく昨今の情勢を考えると、このような方法では立ち行かなくなると考えました。結果、営業本部内におけるコミュニケーションを定性型から定量型に変えようという方針を立て模索しました。
毎年、「日本の人事部」が主催する「HRカンファレンス」というイベントに当社社員が参加しています。そこで、ビジネス数学を説明するオルデナール・コンサルティング合同会社の講演があり、「こんな数学があるのか」と思いました。ビジネス数学力はこれからの時代で求められるものだと共感したと同時に、数字に抵抗感がある文系の私たちでも取り組めるとも感じました。実際に無料のセミナーも受けて手ごたえを感じ、今回のきっかけの1つになりました。
【必要性】成長するには数字を扱う力が不可欠
貴社の事業やサービスの今後の展開・展望を教えてください。また、ビジネス数学力がどのように作用するかもお聞かせください。
〈田村部長〉
そうですね。当社が製造販売しているコネクタ市場の規模は、日本では減少傾向にあります。また、昨今の不透明な情勢においては、お付き合いいただいているお客様にも何が起きるかわかりません。その一方で、まだシェアを十分に取りきれていないという考えもあって、全社的に顧客基盤を広げていく戦略を展開しているところです。
これまでは、長年のお付き合いがあるお客様に対する経験や知識を生かすことが重要でしたが、これからは新しいお客様との付き合いを開拓することが必要です。そうなると、「どこにどれぐらいの市場があるのか」「どのようなお客様がどれぐらいいるのか」「顧客候補の特徴を明確に示すものは何か」といった情報を把握しなくてはなりません。数字やデータを適切に扱い、それらを使ったコミュニケーションが不可欠となります。
私たちが成長していくには、営業本部の社員も数字に広く触れていかなければなりません。また、ここにいる営業の社員もやがて経営の一翼を担ってほしいですし、そうなればいろいろな数字と向き合うことにもなります。
【目標】ビジネス数学検定2級の全員認定をめざす
どのように研修の内容を組み立てているのですか?
〈研修ご担当者〉
まず一部の社員を対象に「数的センス向上トレーニング」を開催しました。ビジネス数学では、1つの正解を厳密に求めるのではなく、ビジネスの場面で活用する数字力を学びます。この研修は、その点がとくによくわかる内容で、数字の苦手意識を払しょくできると思いました。
そして、日本にいる約310人の営業本部の社員に対して、ビジネス数学の5つの力(把握力・分析力・選択力・予測力・表現力)の基礎を養って仮説を立てる力や数字から問題を読み取る力を身につけることを前提に研修の受講を促していきました。また、その学びの効果を客観的に確かめるために、ビジネス数学検定の受検もセットで導入することにしました。
全員がビジネス数学検定2級取得を目標にしています。2023年までに9割の社員が3級を取得しましたので、2024年からは「数的センス向上トレーニング」の応用編と実践編、2級の受検をセットにした研修を展開しています。さらに、各自の専門スキルを高める支援として、「ビジネスで使える統計:基礎編」「"ざっくり"学ぶ財務諸表」「実務に生かすKPI思考」という3つの研修も導入しました。また、全員が目標レベルに到達できるようにするほか、達成できた社員が継続的にビジネス数学力を身につけていく支援もしていきたいと考えています。
【反応】データを情報に変えてから伝える
研修を受けた社員の方たちの反応については、いかがでしたか?
〈研修ご担当者〉
社員のコメントを見ると、前向きなものが多くあります。1人ひとりが数字を扱うことに対して何らかの気づきや学びを得るだけでなく、業務で生かせる点も自ら見つけていて、良い成果に結びついていると思っています。
たとえば、ある営業担当者は、お客様とのコミュニケーションにおいて、単にデータを見せるのではなく、「その数字から自分なりに仮説を立てて、データを情報に変えてから伝えることの重要さに気づいた」というコメントを寄せていました。
また、分析業務担当者の1人は、数字を仮説立証の材料だととらえるようになり、「データの背景にある外的要因も考えるようになった」と振り返っていました。また、「割合だけではなく、実数値もきちんと見ていかないと問題の本質がどこにあるのか見えないことを学んだ」という感想を述べた社員もいました。
私も、「ビジネスで使える統計:基礎編」を受講したのですが、たとえば平均値と中央値がまったく同じ資料があったとき、それらは一見同じに見えても、その数字を使ってグラフ化したり標準偏差を求めたりすると、まったく違う結果になるということを知って驚きました。ビジネスや日常生活で使われる数字にも裏があるかもしれない。また、自分が情報を発信するときも、「伝え方に間違いがないか」と意識して確認するようになりましたね。
【変化】グラフを適切に活用して説明するようになった
実際の業務で、社員の方たちの変化は見られますか?
〈田村部長〉
少なくとも、管理職の会議における営業社員からの進捗報告では、以前のように「がんばります!」とか「今、一生懸命にやっています」という言葉は聞かれなくなりました。程度の差はありますが、自分で作成したグラフや進捗管理図を使いながら現在位置を示すようになっています。このような報告ができるということは、上司と部下の間でも数字をベースとしたコミュニケーションが増えているのだと思います。
もちろん、こうした変化がすぐに売上に結びつくわけではありません。ただ、営業本部の社員が、少なくとも売上目標がどのような数字で構成されているのかを深く理解するようになってきたと感じています。
さまざまな数字を積み上げた目標値だと理解できれば、構成する数字に対する進捗が定量的に把握できるし、達成が厳しいときは何を改善しなくてはならないのか、思ったよりも早く達成できそうなときは何が良かったのかと、数字を使って具体的に考えることができるようになるはずです。
【ビジネス数学力】現代のビジネスにおいて必須の共通スキル
ビジネス数学力は、これから社会に出る若い方にとってどのようなスキルであると感じますか?
〈田村部長〉
今のビジネスパーソンにとって、ビジネス数学力は必須の共通スキルだと私は思っています。多くの日本企業は、企業価値を高めるために、DX(Digital Transformation)やAIなどのデジタル技術をどう使いこなすのか、あるいは目に見えない知的財産や人的資本などの無形資産をどう積極的に活用するか、さまざまな模索をしています。この流れのなかで、ビジネスパーソンが能力の引き出しの1つとしてビジネス数学力をもっておくことが強く求められます。
昨年、私たち営業本部では、営業職として求められる共通スキルと専門スキルを定めました。その共通スキルのなかにもビジネス数学力を入れています。ほかに、英語力やプレゼンテーション力、資料作成力、ITリテラシーも含まれることから、ビジネス数学力はこれらに釣り合うスキルといえます。
若い方々に伝えるメッセージがあるとすれば、ITやAIなどの技術がますます進展していく時代において、データを情報化するためのビジネス数学力を社会に出る前に養っておくと良いということです。かつて日本の企業が海外進出を活発化させていたとき、学生は「英語を勉強しておけ」とよく言われていました。それと同じように、「データや情報を扱う力を身につけておけ」ということなのだと思います。