共愛学園前橋国際大学
目次
導入背景
2018年度から「ビジネス数学」の内容に基づいたデータ活用人材育成プログラム(Honors Base Math)を導入された背景、理由をお聞かせください。
本学は、より高い志を持った次世代のグローカル※リーダーを育てる新たなプログラム「KYOAI GLOCAL HONORS」を2018年度から開始しました。文部科学省の複数事業(グローバル人材育成・大学による地方創生・教育再生の加速化)に同時採択された全国有数の教育カリキュラムをさらに進化・深化させた専門の演習・講義科目により、地域で学び地域を牽引する「課題設定できる人材」「課題解決できる人材」を育成します。その人材に必要な基礎的な能力として「論理的に社会を見る数的処理能力」に注目し、専用科目の「Honors Base Math」として、「ビジネス数学」の内容に基づいたデータ活用人材育成プログラムを導入しました。
おもな受講対象は、専門の入試(センター試験で数学必須)でオナーズ生(高度プログラム受講者)として入学した学生です。しかし、せっかくの学修の機会をオナーズ生のみに開いていてはもったいないため、一部の一般学生にも受講資格を与えています。ただし、「課題設定・解決できる人材」になるための「論理的に社会を見る力」を育成することが目的であるため、この科目を受講する学生に対しては、そのベースとなる基本的な数学力が身についていることを前提条件としました。そのため、一般の学生が受講するには、入学後に行われる専用の選抜試験(センター試験レベルの数学)で基準点に達する必要があります。選抜試験には、毎年3、4人が合格しています。
※グローカル=Global(国際)とLocal(地域)を組み合わせた造語。国際的な視野を持ち、地域の諸課題を解決する人材をグローカル人材と呼んでいる。
プログラム実施後の反応
データ活用人材育成プログラムを受講した後、学生の方々の反応はいかがでしょうか。
1年にわたる「Honors Base Math」を修了した学生は、異口同音に「高校までに習ってきた数学が社会とつながった」という感想を伝えてくれています。単なる計算処理でしかなかった微分が、「変化の割合の数値化」として実社会の分析に使えることに気がついたことなどは、学生にとって大きな学びだと思われます。また、「数学はひたすら数式を解くだけだと思っていたが、世の中の問題を表現する手段でもあると気がついた」という意見など、課題解決以前の課題設定力にも大きな効果があったといえます。さらに「平均値以外の中央値、並数などの代表値を学んだことで、平均値だけでは信用できなくなった。数字にだまされないという姿勢が得られた」という意見もあり、他の科目の学修にも必要な批判的思考力の育成につながったといえます。
2019年度の「全国学力・学習状況調査」では、「200人のうち80人」が全体の人数の何%かを選ぶ問題で、小学生の正答率は53.1%でした。半数が割合の初歩の初歩でつまずいているにも関わらず、中学校以降で割合を学ぶ機会は極めて限定的です。
ビジネス数学検定の中心的なテーマは、割合について多角的に学ぶことだと思っています。そのため、授業のはじめの4回は「割合とは何か?」という内容で授業を行います。そこでの生徒の反応は「意外とかんたん!」「その程度のことだったの?」といったものです。
今の時代に求められる人材
これから就職して社会にでていくうえで、学生のうちに身につけておくべきスキルや考え方、今の時代に求められる人材はどのようなものですか。
本学は国際社会学部のみの単科大学であり、高校時代は文系クラスで学んできた学生が多く、また学内での学びも社会学系の科目が大半を占めます。それゆえ、数学や統計学など数的処理能力を必要とする分野に苦手意識がある学生は少なくありません。しかし、「地域社会の諸課題に対処することのできる人材」となるためには、社会の問題を数値化して表現する課題設定力は必須といえます。だからこそ、オナーズ生に限らずすべての学生にとって「論理的に社会を見る力」の基盤としての「数的処理能力」が、社会に出るための準備として必要であろうと考えます。これは本学だけでなく、今の時代に求められる「課題設定・解決する人材」の育成をめざしているすべての教育機関の共通の課題でしょう。
今後の展望
最後に、貴学の教育・人材育成における今後の取り組みや展望などをお聞かせください。
学校(小学校~大学)には教科や科目という枠があり、英語、国語、数学など、学問分野ごとに学修が分かれています。しかしながら、社会生活は教科や科目で区分されず、すべてが同時並行的に使われています。本学は国際社会学部という幅広い学問分野にまたがった学際的教育を展開しており、今後も幅広い知識を身につけ、それを柔軟に組み合わせながら課題解決できるグローカル人材の育成をめざしていきます。
一方、本学はいわゆる私立文系に区分され、入試においても数学を必須としない入試区分が主です。しかしながら、学問の探求や、社会で働く際にも数的処理能力というものは必要不可欠です。さらに、IoT、ビッグデータ、自然言語データの活用など、データが豊富になればなるほどそれを利活用できる(しなければならない)場面は増え、一部の理系人材のみがデータを取り扱う時代ではなくなってきています。本学では「Honors Base Math」のように「現実社会や文系学問分野のなかで使われる数学」を文系学生であっても習得させるべく、2020年度から一部のコースで数的処理の授業を必修化し、現在検討しているカリキュラム改変では全学部に展開させようと考えています。