学習数学研究紀要 創刊号(第2巻)

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- 系 もしλ1 ≠0,λ2≠0ならば,A の逆行列 A-1 は⑹で n=-1とおいた式 で与えられる。
1 1 P1+ P2 λ λ 1 2
証明 n=0,1のときは補助定理2による(A0=I とみなす) 。次に n>0のとき正しい とすれば An+1=An・A=(λ1nP1+λ2nP2) (λ1P1+λ2P2) =λ1n+1P1+λ2n+1P2+ (λ1nλ2・P1・P2+λ1λ2nP2・P1) n+1の場合になる。すなわち n に関する数学的帰納法で正しい。 系は同様に,n=-1とした式に A=λ1 P1 +λ2 P2 を掛ければ P1 +P2 =I になるので,そ れが逆行列である。▯ 以上によって A の固有値λ1 ,λ2 (但しλ1 ≠λ2 )さえ計算できれば,A の累乗もさらに 逆行列(λ1λ2 ≠0のとき)も,対角化行列などを計算せずに,直接に計算できる。
4 1 例1 A= 8 6
2 固有方程式はλ -1 0 λ+1 6=0であり,固有値はλ1 =8,
⑺
だ が , P1・P2 =P2 ・P1=O(零行列)で⑺の末尾の( )内は O に等しく,⑺は⑹の
λ2 =2;式⑸から P1 =
2 1 1 1 4 -1 , P2 =6-8 2 8 4 6
n 8 6
であり,累乗は次のようになる。 An=
3n+1 n+2 n n n 2 1 2 4 -1 1 2 +2 8 -2 + = n 1 n+3 3n+2 n+1 8 4 6 -8 2 68 -2 2 +2
必要ならば A を対角化して検算してみるとよい。 4.固有値が重解の場合 固有方程式⑴が重複解λをもつ場合には, 上述の方法は適用できないが, 伝統的な標準手 法で累乗 An が計算できる。 もしも重複固有値λに属する固有ベクトル空間が2次元ならば,A は(λ,λ)を対角線 成分とする対角線行列に変換できる。しかしそれは初めから A=λI の場合であって,計算 は容易である。 それ以外の場合には A は対角化できない。しかし(いろいろな方法で)適当な可逆な変 換行列 M により
λ 1 B=M -1AM= =λI + J , J = 0 λ 0 1 0 0
とジョルダンの標準形に変換できる。J 2 = O であり
n An=MB nM -1;B n=(λI + J ) =λnI + n λn-1J
の形で A の累乗が計算できる。具体的には次の通りになる。
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