学習数学研究紀要 創刊号(第1巻)

- ページ: 14
- ように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え出すことができる」
([4])として、「解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解いたり定められた手続を効率的
にこなしたりすること」にとどまらず、「主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに 試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくために必要な力 を身に付け」ことや「予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関 わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手と なっていけるようにする」ことが重要であるとしている。 今年 1 月、 ある業界新聞の新春座談会([5])で、 人工知能関連の仕事に携わっている方々と意 見交換する機会があった。印象に残ったことは、「0から1を創り出すことの重要性」の指摘と その過程で「試行錯誤や試行接近を実体験することの大切さ」についての指摘であった。いずれ も、著名な数学者 G.ポリヤ(Polya:1887-1985)は、およそ 70 年前に探究の方法としての「帰納」 を提案している([6])が、そこでの暗示的接触に関わることである。つまり、試行錯誤、試行接 近、当て推量を経て推測の構成に至る過程である。彼は、推測の構成から始まり、思考実験(擬 実験)、検証に至る過程を支持的接触とし、 暗示的接触と合わせて帰納的手続きとしている。こ の手続きを支える態度として帰納的態度を挙げ、「帰納」はこれらをいわば車の両輪として展開 するとするとしている。帰納的態度を構成する要素として、知的勇気、知的正直さ及び賢明な る自制を例示している。 「帰納」は、今日育成を目指している資質・能力を身に付ける指導の急所を的確に示している と言える。 実は、 平成元年改訂の算数科([7])で「問題解決」を強調し「思考実験」を明示した背景 にはこのことがあり、G.ポリヤ同様、数学教育の人間化を強く意識した対応であった。彼の主 張の今日的な意義を明らかにし、算数・数学科の教育の進展に活かしていきたい。 ② 「生きる力」の再構造化 「次期」では、平成 8 年に中教審で提案され、それ以来、知育の中核として、育成を目指して きている「生きる力」を一層精緻化し、各教科等の目標や内容の構成に反映している。 中教審への諮問理由の説明([8])では、「高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協 働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていく力」(下線引用者)の育成を中核においた 教育課程の基準等の改善を目指すことが明示され、「現行」における習得・活用・探究(習得と探 究を活用でつなぐ)を発展させ、 さらに、 その上に「自立と協働による創造」にまで高める方向が 示されている。これを受けて、答申([3])では「学校教育を通じて子供たちに育てたい姿」とし て「自立と協働による創造」の様相が再構成されている。 まず、 自立では「主体的に学びに向かい、 (中略)、自ら知識を深めて個性や能力を伸ばし、人生を切り拓ひらいていくこと」が、次いで、 協働では「他者の考えを理解し、 自分の考えを広げ深めたり、 集団としての考えを発展させたり すること」が、最後に、創造では「試行錯誤しながら問題を発見・解決し、新たな価値を創造し ていくこと」がそれぞれ強調されている。これらは、「『生きる力』を、現在とこれからの社会 の変化の文脈の中で改めて捉え直し」たもので、「教育課程を通じて確実に育むことが求められ ている」こととしている。
-11-
- ▲TOP