学習数学研究紀要 創刊号(第2巻)

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- 個々の学びの改善に向けた数学検定・算数検定への期待
学習数学研究所 特任研究員 塩澤 友樹(*) 「3a-a=3」 。 「2 つの底角が等しい三角形は、二等辺三角形である」 。これらは、中学校 の授業で出会う代表的な 2 つの誤答である。前者は中学 1 年生の文字式の計算でよくある 誤りである。生徒は「ひくは取るだから、3a から a を取ればよい」と解釈し、解答したと 推察される。一方、後者は議論の余地が残るが、中学校の教科書では、二等辺三角形の底辺 の両端の角を「底角」と定義する。そのため、二等辺三角形と分からない段階では、 「2 つ の角が等しい三角形は、二等辺三角形である」と表現する。生徒は何となく回答したと答え るかもしれないが、この命題を通して、証明の学習における言葉の大切さ、論理的に考える ことの大切さを実感する。 中学生の授業を受け持った際、 毎年これらに戸惑う生徒がいる一 方、授業で取り上げた際に盛り上がる内容でもあった。私は初任者の頃、これらの反応を予 想することはできなかった。しかし、毎年、授業を受け持つ中で同じ内容でつまずく生徒に 出会い、逆にクラス全体で共有することで、生徒のつまずきを減らすことができた。このよ うに考えると、数学検定・算数検定にも同様の効果が期待できる。 現在の社会は、IT 機器の普及や AI(人工知能) 、ビッグデータ等の社会実装により、新た な市場が開拓され、 「第 4 次産業革命」を迎えている( [1] ) 。数学の重要性が増す中で、算 数・数学に関する素養を身に付けることはより一層重要になっている。 一方、 社会が多様化・ 複雑化するからこそ、1 人 1 人が自己の学びを客観的に評価すること、さらには典型的な誤 答に気付き、より深く自己の学びを把握し、改善できる学習環境を整える必要がある。例え ば、受検者個人として、数学検定・算数検定の合否だけでなく、細かい単元の正答率を把握 することで、自分の苦手分野に気付くことができる。また、大規模データに基づき典型的な 間違いを分類できれば、 その結果に照らし合わせて、 さらに詳細に自己の学びを振り返るこ とができる。 (公財)日本数学検定協会では、現在「数検スコア診断」の取組を通して、生徒 1 人ひと りの学習到達度を診断する WEB 上の分析診断ツールを提供している。 数学検定・算数検定に は、 個別最適化された学びの学習環境を整える観点からも、 ぜひ客観的なデータに基づき、 自己の学びをより深く把握し、改善に向けた道標を指し示すことができる取組にも期待し たい。願わくば、新しい時代の学校教育において、先生方の普段の授業の営みを支える役割 も担って欲しい。
[1]経済産業省(2019).数理資本主義の時代―数学パワーが世界を変える―. https://www.meti.go.jp/shingikai/ (*)岐阜聖徳学園大学専任講師 economy/risukei_jinzai/pdf/20190326b_report.pdf
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