学習数学研究紀要 創刊号(第1巻)

- ページ: 49
- 公益財団法人 日本数学検定協会が「記述式」を重んじる理由
(2018 年 1 月 30 日)
公益財団法人日本数学検定協会 学習数学研究所 当協会の行う「実用数学技能検定」 (数学検定・算数検定)は、検定によって人をふるい分けるとい うものではありません。当協会は、いかに多くの「数学が好きな児童・生徒・学生・社会人を育てる」 かが大切であると考えています。数学の問題を解くことを通して、数学を楽しむことができる機会を、 検定という手法を用いて広くみなさまに提供しています。 数学検定は、数学の知識をどれだけ覚えているかを問うものではありません。数学検定の正式名称は 先に記したとおり実用数学技能検定で、社会や日常生活で数学がいかに使えるか、使われているかを、 検定問題を通じて理解いただくことに重きを置いております。数学を理解し、使えるようになるという ことは、金融・情報・AI・工学・技術・流通・サービスなど、文系理系を問わず、さまざまな分野の 発展に寄与する人材の育成につながります。また、数学的に考えることによって、他者との情報・意見 交換が正確に行えるようになるということは、社会の中でとくに役立つ技能となります。 当協会が、なぜ発足当初から記述式の答案を大切にしてきたかは、数学検定のあり方と直接かかわる と同時に、数学という学問をいかに捉えるかに応えることとも関連します。数学的に考えることは人類 にとって基本的な思考方法であり、この思考方法が存在することによって人類は社会を構築してきたと いっても過言ではありません。 数学の学びを通して、知識や技能を習得するだけでなく、それらを活用して問題を解決したり、新しい 知識や技能を導き出したりする過程で、 「考える」ことの質を高めていくことが大切です。このため、記 述することは必要不可欠であると考えています。 記述式を重んじる理由 (1)条件から結論を導くための筋道を記述することによって、情報を整理し、条件を導き出し、正確に 伝える力を身に付けることができます。 (2)考えたこと、その過程や結果を記述することによって、考えがどこまで到達したかを確認でき、よ りよい考えや説明の仕方を導くきっかけをみつけることができます。 (3)考え方を記述し振り返ることにより、数学的な考え方は一通りではないことが分かり、社会のさま ざまな問題を解決する場合にも考え方は1つではないことが理解でき、物事を多面的に見る力を高 めることができます。 (4)新しい知識や技能を導く過程で、その意味や手順を記述することによって、それらの知識・技能を よりよく習得することができます。 (5)自らの考えを記述して第三者に伝えることは、社会生活においても重要なことであり、数学の学び を通してその基礎的な技能を身につけることができます。 以下に当協会が過去に出題した問題から2題(数学検定2級 高等学校2年程度)を問題例として挙げ ます。 問題例1は、日常生活の事象を数学的にとらえた問題です。解答例では1次不等式を使って解いてい ますが、方程式や1次関数のグラフを用いた解法も考えられます。記述式にすることで受検者のさまざ まな考え方を捉えることができ、考え方がいろいろあり一通りでないこと知ることができます。記述式 の出題により、正解に到達しなくても、途中の筋道が正しければ、部分点を付与することができます。 問題例2は、社会の事象に関連した問題で、解答形式は短答式です。 (2)では、新入社員をそれぞれ の期待効果が最大の部署に配属することができないので、試行錯誤が必要です。その際、全体の期待効 果が最大であることを確認するために数学的に考えることが必要となります。
-44-
- ▲TOP