仕事で数学発見!

第1回 ハナヤマのキャストパズル

※「キャストパズル」は2016年7月5日から、名称を「はずる」と改めていますが、記事内では取材当時のまま「キャストパズル」と表記しております。

今回は株式会社ハナヤマにおじゃまします。ハナヤマは立体パズルの一流メーカーとして世界的に知られている会社です。
今回はパズルの中でも最近人気が高まっている、「キャストパズル」(現:はずる)についてお話を伺います。

お話を伺うのは、R&D部 マーケティング課の坂本忠之さんです。

坂本さん:

よろしくお願いします。キャストパズルのことなら何でも聞いてください。

坂本忠之さん

ハナヤマはキャストパズルなど、立体パズルのメーカーとして知られている会社ですが、これまでどのくらいの種類のパズルを販売されてきたのですか?

坂本さん:

弊社は昭和初期から、さまざまなパズルを販売してきました。恐らく数百種類のパズルを販売してきたと思います。

すごいですね! では、なぜ、キャストパズルを販売することになったのでしょうか?

坂本さん:

今はもう亡くなられたのですが、芦ヶ原(よしがはら)伸之さんという著名なパズル作家がいまして、その方がロンドンの蚤(のみ)の市(古物市)で19世紀末につくられた金属製パズルを見つけたのが始まりです。芦ヶ原さんは世界中のさまざまなパズルをコレクションしていましたが、その金属製のパズルをとても気に入って、この現代によみがえらせることができないかと当社にお話をもちかけてくださいました。1983年のことです。
芦ヶ原さんは子どものころ、当社のロングセラー商品である『ラッキーパズル』で遊んでいたそうで、「パズルといったらハナヤマ」と思ってくださったようです。

パズルの老舗(しにせ)メーカーならではのエピソードですね。ところで、なぜ「キャストパズル」という名前なんですか?

見た目も楽しいキャストパズル(現:はずる)

坂本さん:

金属部品などを大量生産するために使われる鋳造(ちゅうぞう)法の1つにダイキャスト製法というものがあります。これは複雑な形をした金属パズルを大量に作るのに適した製法で、キャストパズルはこの製法で作っています。その製法名から『キャストパズル』と名づけました。
今ではシリコンの型で作製することもできるので、このようなさまざまな形状のパズルを作れるようになりました。

 

本当にいろいろな種類があって、見ているだけでワクワクしますね!
1つ疑問なのですが、キャストパズルの試作品はどうやって作られているのでしょうか。最初からダイキャストで作るわけではありませんよね。

坂本さん:

最近はほとんどの試作品が3Dプリンタで作られます。

3Dプリンタですか! なるほど!

坂本さん:

以前は絵だけだったり、木工や粘土で試作品を作ったりしていましたが、最近はパソコンで3Dデータを作る作家さんが増えてきました。3Dプリンタの登場で、試作品がかんたんに作れるようになったので、これまで実現できなかったようなアイデアも出てきて、可能性が一気に広がりました。

キャストパズルについて少し分かってきたところで、坂本さんのお仕事についてお聞きします。坂本さんは具体的にどんなお仕事をされているんでしょうか。

坂本さん:

私が担当しているのは、おもに商品の企画についてです。まずはパズル作家さんが新しく考案したアイデアを検証します。相当数のキャストパズルのアイデアを見ているので、商品化できそうなアイデアかどうかはほとんど見た瞬間に分かります。

見た瞬間にですか!? たとえばどんな部分で判断しているんですか?

坂本さん:

まずは見た目が美しいことですね。それから、キャストパズルの解き方はいくつかのタイプにある程度分けることができて、「これは、こんなタイプかな」と見てすぐに分かるものもけっこうあります。 ところが、解き方が容易に想像できないようなものがあると「お、これは!?」と引き込まれますね。最近のものでは、見た瞬間に「新しい!」と感じたのが『キャストマーブル』として商品化したパズルです。これはねらいどおり、大ヒットとなりました。

『キャストマーブル』

本当に美しい形ですね。パズルじゃないみたいです。

坂本さん:

これも3Dデータで作るようになったからこそできたものです。また、コンセプト担当とデザイン担当の2人の作家の共同作品というところもおもしろいですね。これは、外側と中の球体と4つに分解できるんですが、2重らせん構造の特徴を理解していないと解くことができません。

数学的なお話が出てきましたね!

坂本さん:

やはりキャストパズルは幾何学的な特徴から着想されるものが多いですね。『キャストへリックス』という2枚のプレートをずらしながらリングを外していくパズルがありますが、これは対数らせんの理論を使って、常にリングを通す穴が直交するように作られています。
ほら、どう動かしてもリングを通す穴の大きさは同じですよね。

『キャストへリックス』

本当ですね! 実際に手に取ってみると感激です!

坂本さん:

ほかにも、作家さんがパズルの難易度を上げるためによく使うテクニックの1つとして、「パリティチェンジ」というものがあります。

パリティって、たしか偶奇性のことですよね。

坂本さん:

はい。みなさんは『15パズル』をご存じでしょうか。空いたスペースを使ってブロックをスライドさせて、1から15までのピースを並べかえるパズルです。最近は、アニメのキャラクターなどがプリントされている商品がありますね。『15パズル』のようなパズルは「スライディングブロックパズル」と呼ばれています。
あのブロックをすべて外して適当に入れ直して並べ替えを行うと、どうやっても1から15まで順番にならないパターンが2分の1の確率で出現します。そのような特徴をパリティまたは偶奇性といいます。

15パズルの『WOODY STYLE 15ゲーム』

パズルに「解」があるかどうか確認するためにパリティをチェックすると聞いたことがありますが、パリティチェンジというのはどういうものでしょうか?

坂本さん:

パリティチェンジとは、パリティを入れ替えないと解けないようにする手法です。パリティチェンジを仕込んであると、そのままではいくらやっても解けません。それに気づいて、パリティを入れ替える、つまりパリティチェンジを行うことで解くことができるようになるのです。

なるほど。パズルをおもしろくするのにも数学が生きているんですね。
パズルに精通されている坂本さん。ご自身について聞きました。坂本さんは数学が得意でしたか?

坂本さん:

大学は経営学科でした(笑)。でも、子どものころは算数の応用問題がすごく得意でしたね。

パズルはいかがですか。

坂本さん:

好きを通り越して、10代のころから自分でいろいろなパズルを作っています。今も新聞や雑誌などに載せるパズルを作っていますよ。

ご自身もパズル作家でいらっしゃるんですね! パズルを作るために何か心がけていることはありますか? ネタ帳をつけるとか。

坂本さん:

そうですね、たとえばできるだけ本を読まないとか。

え、本を読まないんですか!?

坂本さん:

もちろん、まったく読まないわけではありません。ただ「知識を身につけたい」といった理由でひとまず読んでみるようなことはあまりしません。パズルを作ったり解いたりするためには固定観念にとらわれないことが不可欠ですから、読むよりも考える、覚えるよりも理解するようにしたいんです。 逆にいえば、パズルを楽しむことで、いろいろな角度から物事を考えられるようになるのではないでしょうか。もちろん、数学を好きになるきっかけにもなると思いますよ。

パズルを通して数学好きが増えたらうれしいです! 今日は楽しいお話をありがとうございました。

プロフィール

坂本忠之(さかもと ただゆき)
株式会社ハナヤマ R&D部 マーケティング課 リーダー

大学卒業後、玩具メーカーに就職
その後、2007年にハナヤマ入社、以来現職

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