これからの算数や数学の学びに向けて
― 情報の受け止め・受け入れと自立的な学びの促進 ―

2020.07.07
お知らせ
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公益財団法人 日本数学検定協会
理事長 清水  静海

平素は、実用数学技能検定(数学検定・算数検定。以下、「数検」)をご活用くださり誠にありがとうございます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、「新型コロナ」)の感染拡大防止策にともない、受検者ならびに関係者のみなさまにご心配とご不便をおかけしました。この間、「数検」実施の延期などを余儀なくされ、受検者のみなさまからは「早く受検できるようにしてほしい」「自信のない問題を今のうちに解けるようにします」など、当協会への励ましや受検に対する意気込みのメッセージをお届けくださっております。みなさまのご期待にお応えできますよう決意を新たにさせていただいているところです。

新しい生活様式に基づく生活を支える情報の受け止めと受け入れ

医療や介護従事者による献身的な対応、感染症専門家をはじめ多くの研究者による粘り強い探究、1人ひとりの冷静かつ忍耐強い対応などにより、新型コロナの第1波感染をほぼ抑え込むことができました。今後は、予測されている第2波、第3波の感染拡大を視野に入れながら、気持ちを「自粛」から「自衛」にシフトして、新型コロナと共存する方向が示されています。

感染が確認されてわずか半年の間に、新型のウイルスの振る舞いの解明、それに基づくワクチン等医薬品の開発などが急速に展開されるとともに、数理モデルによる感染予測に基づく生活様式の変更を促す提案が行われてきました。これらを短期間で可能にしてくれた背景には、AI(人工知能)によるビッグ・データの処理があり、処理に要する時間が大幅に短縮されたことがあります。AIの活用により新たな地平が開かれていると言えます。

数理モデルに基づく感染予測では、いくつかの前提をおいたり、その前提を替えたりして多様な選択肢が示されました。このことは、予測のもとには前提があること、予測は前提に依存し多様であることを明らかにしてくれています。すなわち、情報を受け止め、受け入れる際には、情報それ自体だけではなく、その前提にあることをあわせて捉えることが大切であることに気づかせてくれました。このことは、情報化の進展する社会を賢く生き抜いていくために重要な思考法です。この思考法は、算数や数学の学びを通して確かに培うことができます。
この間、たとえば、感染者の数、実効再生産数など数値化された情報、感染者の人数、累積度数の分布、将来の感染者数の予測などグラフ化された情報が身近になりました。発信された情報を的確に把握し、それに基づき冷静に分析・判断することの重要性を、日常の生活のなかで実体験できました。実は、この「把握」「分析・判断」「表現」にかかわる力は、日常の生活においてだけでなく、ビジネスにおいても重要な力として位置づけられています。これらにかかわる力は、算数や数学の学びの過程でも繰り返しはたらき、学びを重ねることにより質的に高められていくものです。こうした汎用性の高い力は広く学びを進める際に大きな支えとなります。

学びにおける自立の促進と学習環境の整備

教育の現場では、学校の休業措置が解除され、変則的にではありますが、対面による授業が実施されるようになり、学びの遅れを取り戻し、通常の学びへの早期の移行に向けて対応が進められています。あわせて、学びの保証に意を用いながら、これまでの学びを大胆に見直し、これからの学びのあり方を冷静かつ真剣に検討し、提案することが期待されているといえます。

溌剌とした学びは、学びの対象や学び自体への知的好奇心に支えられ、学ぶ目標を明確に意識することで実現できます。1人ひとりが、学びに溌剌と取り組むことのできる環境を準備したいものです。学びは、自らの可能性を拡げ、社会によりよく貢献できるようにしてくれます。しかし、学び、それは必ずしも容易ではなく、一定の困難をともなうこともあります。この困難に果敢に挑戦し、乗り越え、遂行できてはじめて、確かで豊かな学びが実現できるといえます。その際、学びへの意志を確かに意識すること、学びの手立てを身につけ生かすこと、自信を持ち成就感をともなって学びを遂行できること、伸びや努力のあとを振り返り適切に評価することなどに配慮したいものです。さらに、学びの必要性や意義が分かること、がんばれば自ら学ぶことができることを認識することなどにより、学びの習慣化を促すことになります。

今回のできごとは、学びにおける「自立」の重要性を改めて気づかせてくれました。自ら、問題を見いだし、試行錯誤をしながらそれを解決し、振り返って次につなげていくことです。
学校での対面による授業では、学びにおける「自立」を促すために必要なことをしっかりと学ぶ機会としての位置づけが一層重要になるでしょう。さらに、対面による授業ならではの強み、すなわち、切磋琢磨により、1人ひとりの考えを質的に向上させたり新たな考えを生み出したりする協働的な学びを実現することが期待されています。算数や数学の学びにおいても例外ではありません。むしろ、これらのことをよりよく実現することができるでしょう。

算数や数学の学びの動機づけを強化するためには、算数や数学への興味・関心をもち知的好奇心を高めること、算数や数学の学びを通して生活や学びの基盤となる基本的な力を育んでくれることを実感すること、将来のキャリアと結びつけてその必要性や重要性を認識することなどを大切にする必要があります。さらに、算数や数学の学びへの努力が適切に評価されることで、学びへの自信、さらなる学びへ向けての意欲の向上につながれば理想的です。

当協会では、算数や数学の学びについて研究を重ね、みなさまに算数や数学の学びの機会を提供するとともに、学びの成果を顕彰・評価する検定制度を創設し、生涯学習社会における学びに積極的に貢献しようとしてきました。みなさまのご健康を祈念しながら、これからの社会を安全に、しかも、安心して過ごすことができるよう、算数や数学の学びの側面からサポートを行ってまいります。